『書物の迷宮』予告篇

思い出したように本を読み、本の読み方を思い出す

書籍

ジャック・ヴァンス『奇跡なす者たち』

「黄色! それだけは、いかなる陶匠もいまだ創りだすことの出来ぬ幻の色。鉄はくすんだ飴色しか呈さず、銀は灰黄色に濁り、アンチモンは〈窯焼山〉の高熱に耐えきれぬ。醇乎として醇なる黄色、日輪の黄色――おお、それこそは、われらが求めてやまぬ夢の色……」…

グレッグ・イーガン『プランク・ダイブ』

「そんな苦しみをあたえるどんな権利が、わたしたちにあるというんですか、いったい?」 「きみは自分が今ここに存在していることに感謝しているだろう? 進化上の祖先たちがどんな苦しい目にあってきたとしても」 ― グレッグ・イーガン「クリスタルの夜」 …

ウラジミール・ソローキン『青い脂』

個体オブジェクトは七体。トルストイ4号、チェーホフ3号、ナボコフ7号、パステルナーク1号、ドストエフスキー2号、アフマートワ2号、プラトーノフ3号。 ― ウラジミール・ソローキン『青い脂』 額を怪我して入院していたので、ゆっくり本が読めた。 ソローキ…

ジョルジュ・ペレック『給料をあげてもらうために上司に近づく技術と方法』

リラックスしてください! ―ジョルジュ・ペレック『給料をあげてもらうために上司に近づく技術と方法』 『給料をあげてもらうために上司に近づく技術と方法』という実用書めいた本を書いたのはフランス語の再頻出母音Eを含まない小説『煙滅』などの作者ジョ…

円城塔『シャッフル航法』

強引でもいい。 逞しく育ってほしい。 ― 「Beaver Weaver」 円城塔の書く話はわりと好きで、ここ最近めっきり本を読まなくなったなかでも思い出したように読んでいる。 今回の『シャッフル航法』のなかでは個人的にカート・ヴォネガットのトラルファマドール…

ペレック『煙滅』

こうやって、すべてが反転するのだ。不足から飽和へ、束縛から奔放へ。想像の作用で暗黒が光華へと生まれ変わるのだ! ――ペレック『煙滅』 これもまた煙滅のある顕現。 かねてから伝聞漏れ伝わるところの、可能文学工房の作家ペレックの『煙滅』。 ある仮名*1…

五十嵐大介『SARU』上巻

最近めっきり本を読めなくなってしまっているけれども、漫画だけはなんとか読んでいる。 特に五十嵐大介については、単行本を確実に読むように心掛けたい、と思う今日この頃です。 先日地上波で映画『風の谷のナウシカ』が放送されていた。 宮崎駿の原作漫画…

伊藤計劃『ハーモニー』

この小説を読むときに、「これはユートピア=ディストピア小説」という先入観があったのだけど、実際には違った。 『ハーモニー』の世界は、病気というものが一部の遺伝病を除いて根絶された世界、WatchMeという体内のインプラントによって身体の恒常性が維持…

暗黒未満がクラスチェンジするための書籍リスト

よく分かりませんが自分は暗黒女子*1らしいので、それっぽい本のお薦めでも書いてみようかなと。 「耽美・異端・グロテスクに対する理解・共感」といった方向性でまとめてみようと思います。以下タイトルは適当です。 あとあまりマジメに本の解説をする気も…

ヴィリエ・ド・リラダン『リラダン全集1』

誕生日に5冊揃いで買ったうちの一巻目。相応の値段はしたけど、いま現在リラダンをまとめて読むにはこの本しかない。 収録作品は『残酷物語』『新残酷物語』『トリビュラ・ボノメ』。 『残酷物語』は既読だったので、『新残酷物語』から読み始めましたが、こ…

本棚画像

本棚を晒す - 心揺々として戸惑ひ易く 本棚画像のリクエストがあったので、携帯で撮ってみた。画像が小さい&荒くてすいません。 お気に入りの棚最上段。 左から夜想(復刊前、後),評論っぽいもの、精神心裡系、山尾悠子、山崎俊夫。 二段目。左から澁澤龍彦、…

山本タカト『ヘルマフロディトスの肋骨』

前々から予約していた特装版を入手。ちなみに500冊中の51冊目。 内容は、スパン・アート・ギャラリーでの『アリス幻想』展、パラボリカ・ビス『夜想 ヴァンパイア展』などで展示されたもの+小説の表紙絵その他から。 個人的には『アリス幻想』の図録に収録さ…

アンナ・カヴァン『氷』(復刊・改訳版)

前回の感想↓ わたしとわたしとわたしとわたし(アンナ・カヴァン『氷』) - 大よろこびする優しい雷鳴以下、内容に踏み込み気味なので未読の人は↑だけどうぞ。

ジョイス・マンスール『充ち足りた死者』

「だれかほかの人が、あたしの人生を生きてくれればいいのに。感じやすい情愛を切りもなく背負わされて、あたしは、酒のせいでとけとげしくなった老人たちにかこまれ、無気力の砂州に乗りあげることしかできないんだ。虚飾や淫蕩さや愚行に逆らえるほど厚か…

ジャン・ジュネ『ブレストの乱暴者』

以前読んだ同作者の『泥棒日記』と比較して、断然こちらの方が面白い。 この辺は主に訳者の調子が作品によく合っているかだろうという感じ。翻訳者は澁澤龍彦で、彼の翻訳作品のなかでも特に面白い部類に含まれる予感。 霧に包まれた街、水兵、強盗、殺人、…

津原泰水『赤い竪琴』

津原泰水『赤い竪琴』読了。 彼の鉱物質の上に神経が巡らされたような文章、それがときどきグズグズと肉質の柔らかいものに変わるところが好き。 今回は前者を十全に楽しむことができた。物語の種別的には、この小説は恋愛譚に分類されるかな。 津原泰水の書…

@monadoと戦うためのブックリスト

タイトルは適当。そもそもこのリストを作ったひとが勝負になっていないという……。 最初は人文科学部 - はてなグループ::ついったー部向けブックリストだったのですが、拡張されすぎておかしくなった。 本当はもっと体系的にする必要があるのだけど、うまくま…

山崎俊夫「指を磨く男」

山崎俊夫作品集・中巻『神経花瓶』の「指を磨く男」など読んでいたが、とても良い。 指への偏愛・自己愛がひたすら語られ続けるというだけの内容だが、指の見立てなどの幻想に電車内で恍惚とするなどした。 嘗て盲者(めしい)の指に触つた事のある人は、誰し…

ジェラルド・カーシュ『瓶の中の手記』

そろそろはてな記法も自分の文体さえも忘却の彼方なこの頃。ずっとTwitterとかUstreamで朗読したり東京で生活していたりします。 さておき、ジェラルド・カーシュ『瓶の中の手記』です。 最近、文章を読む速度と脳内で処理する速度が噛み合なくて本が読めな…

佐藤亜紀『雲雀』

佐藤亜紀の文章は、何かが自分が読みながらイメージを作るタイミングとズレているらしく、いつも引っ掛かりを覚えていたのだけれど、『雲雀』はある程度読み続けていたら、その感覚がなくなった。 そのせいか、この作品が今まで読んだ佐藤亜紀作品の中で、一…

ジェイムズ・エルロイ『わが母なる暗黒』読み中。

前知識無しに読み始めたんですが、この作品って作者の過去に基づく話なのだろうか。 冒頭に屍体で発見される女性の姓がエルロイで、原題が『My Dark Places』なので、そんな気が。 表紙には、当時の新聞記事の一部や屍体写真とおぼしきものも。 まぁ、後書き…

澁澤龍彦『妖人奇人館』

なんか本を読む気力が低下中なので、軽めの本を読もうと思って買ってきた。 久しぶりに弾いたギターが楽しくて、そっちにばかりかまけているのも原因の一つなんですが、どうも最近読む気力が湧かない……。妖人奇人館 (河出文庫)作者: 澁澤龍彦出版社/メーカー…

斉藤環『生き延びるためのラカン』

読み終わったものの、ちょっと飲み込みきれてない部分があるので明日辺りもう一度通読。 ちょっと文調のなれなれしい感じが気になったけど、かなり平易な語り口でラカンを語っていて、自分みたいな入門者にはちょうどいいんじゃないかと思った。 それにして…

竹宮惠子『地球へ……』 2,3

設定はけっこうシンプルだと思うんだけど、ストーリーというか人物の絡め方、エピソードの重ね方がすごくうまいと思う。 凝った設定を導入しなくても、ストーリーテリング次第でどうとでもなるということか。けっこう色々なSFの要素が取り込まれてて、SF好き…

竹宮惠子『地球へ……』1

テレビアニメが放映中らしく、それに合わせて出た新装版。萩尾望都好きな人にお薦めな感じ。 ストーリー的にはビッグブラザーもの+ミュータントものなSFというか。 作者の竹宮惠子は萩尾望都などを含む所謂「24年組」*1の人みたいですね。 一巻はまだ主要人…

5月に買ったり買わなかったりする本。

via:オンライン書店 本やタウン:文庫近刊情報より - 悪漢と密偵 5/10に佐藤亜紀の『雲雀』が文庫化。買わねば。 5月上旬に高橋葉介『夢幻紳士怪 奇篇』。これも買わねば。 松浦理英子の『ナチュラルウーマン』が新装版に。旧版を持ってるからいいか。 5月下…

『20世紀SF 6 1990年代 遺伝子戦争』

個人的にはちょっと物足りないなぁ。 ウィリアム・ブラウニング・スペンサー『真夜中をダウンロード』なんかは仮想現実やネット、人工知能などのガジェットが出てくるんだけど、なんか古くさく感じてしまう。 10年くらい前に読んでいれば、また評価が違うの…

萩尾望都『ウは宇宙船のウ』

萩尾望都とレイ・ブラッドベリ、合っているというか、両方の作風が合わさってとても面白い仕上がり。 萩尾望都画で、『10月はたそがれの国』とか『塵よりよみがえり』とか読んでみたくなる。 ブラッドベリの『集会』が収録されてるんですが、こんなに昔の作…

20世紀SF 1960年代

順番はバラバラに読んでます。単純にバラードや、興味があったトーマス・M・ディッシュなどの作家がいたので60年代から読み始めたのですが、読後はちょっと比較したくなったので、50年代に逆走。 60年代の作家、特にバラードやディッシュは、SF以外の手法を…

『20世紀SF 5 1980年代 「冬のマーケット」』

20世紀SF〈5〉1980年代―冬のマーケット (河出文庫)作者: 中村融,山岸真出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2001/07メディア: 文庫購入: 8人 クリック: 62回この商品を含むブログ (23件) を見る河出文庫から出ている『20世紀SF』の5巻。80年代のサイバー…