『書物の迷宮』予告篇

思い出したように本を読み、本の読み方を思い出す

坂口安吾『夜長姫と耳男』

図書カード:夜長姫と耳男
堀佳子*1の作品の中に、夜長姫というのがあったなぁ……と思い、その元だろうと思われる坂口安吾の『夜長姫と耳男』。
安吾澁澤龍彦編纂の短編集に入っていた『桜の森の満開の下*2がお気に入り。ちょっと文章が野暮ったい気もしますが、これはこれで味だと思います。
『夜長姫と耳男』は『桜の森の満開の下』と似通ったところのある作品だと思います。死で戯れる女性が出てくる辺りとか、それに振り回される役回りの男とか。どちらが好みかと言えば、登場人物の好みで『夜長姫』に軍配を上げたいと思います。話の纏まり方としては、『桜の森の満開の下』の方が綺麗ですが。

北方の地はいまだ桜のつぼみさえ見えぬ様なので、とりあえずは『桜の森の満開の下』でも読んで過ごすかなぁ……。

桜の花が咲くと人々は酒をぶらさげたり団子をたべて花の下を歩いて絶景だの春ランマンだのと浮かれて陽気になりますが、これは嘘です。なぜ嘘かと申しますと、桜の花の下へ人がより集って酔っ払ってゲロを吐いて喧嘩して、これは江戸時代からの話で、大昔は桜の花の下は怖しいと思っても、絶景だなどとは誰も思いませんでした。近頃は桜の花の下といえば人間がより集って酒をのんで喧嘩していますから陽気でにぎやかだと思いこんでいますが、桜の花の下から人間を取り去ると怖ろしい景色になりますので、能にも、さる母親が愛児を人さらいにさらわれて子供を探して発狂して桜の花の満開の林の下へ来かかり見渡す花びらの陰に子供の幻を描いて狂い死して花びらに埋まってしまう(このところ小生の蛇足)という話もあり、桜の林の花の下に人の姿がなければ怖しいばかりです。
坂口安吾桜の森の満開の下

桜の森の満開の下』の書き出しはこんな感じなのですが、「奇麗な桜の木の下には屍体が埋まっている」というあの話はこの辺が元なのかなぁ……。何か他にあったような気もしますが。