『書物の迷宮』予告篇

思い出したように本を読み、本の読み方を思い出す

マルグリット・ユルスナール『東方綺譚』

この本ももっと早く読んでおけば良かった……。
まぁ、あまり昔に読んでも良いと思ったかどうか分らないですが。
物事には順番ってありますよね。いきなり名作から入っても、必ずしも上手くいかない、みたいな。
閑話休題
以前、同じ多田智満子訳のアントナン・アルトーヘリオガバルスまたは戴冠せるアナーキスト』を読んだときは「読み難いなぁ」と感じたのですが、あれはアルトーが読み難いのであって、多田智満子は関係なかったようです。
この『東方綺譚』という作品は、マルグリット・ユルスナールの初期作品らしく、これは作者自身による改訂版を元にしているようです。
その名の通り、収録されている九つの短編の舞台は東方(オリエント)。ところで、フランス辺りから見ると、ギリシャもオリエントのうちに含むんですね……。
源氏物語の「雲隠」の巻を想定して書かれた「源氏の君の最後の恋」も捨てがたいのですが、特筆すべきは冒頭の作品「老絵師の行方」かな、と。

はじめて『東方綺譚』をひもといたとき、冒頭の作品『老絵師の行方』の神韻縹渺たる趣に魅せられたことが、この度この翻訳を手がけることになった主な理由である。

と、解題に多田智満子は書いているのですが、その為か『東方綺譚』全体でもっとも力の入った翻訳になっている気がします。
主人公の老絵師、汪佛*1が見出す色彩が、文章表現として見事に定着しています。
筋自体は小泉八雲の作品と被っているらしく、私もどこかで聞いた覚えが。どちらも同じ元かなと思ったら、『東方綺譚』は道教の逸話からだとか。
http://homepage2.nifty.com/masaoka/index.htmによると、ユルスナールは『黒の過程』もお薦めらしいのでチェックチェック。そちらは多田智満子訳ではないようです。

東方綺譚 (白水Uブックス (69))

東方綺譚 (白水Uブックス (69))

*1:Shift-JIS X0208だと文字化けするかな……。にんべんに弗です。