『書物の迷宮』予告篇

思い出したように本を読み、本の読み方を思い出す

スタニスワフ・レム『完全な真空』

長大な作品を物するのは、数分間で語りつくせる着想を五百ページにわたって展開するのは、労のみ多くて功少ない狂気の沙汰である。よりましな方法は、それらの書物が既に存在すると見せかけて、要約や注釈を差しだすことだ。
ホルヘ・ルイス・ボルヘス『八岐の園』

スタニスワフ・レムのメタ書評集『完全な真空』読了。存在しない架空の本に関する書評集。
上記の説明だと「なんだ実験小説の類いか」などと思われるかも知れませんが、かなり面白いのですよこれが。
収録の「とどのつまりはなにもなし」のような文学上の時事ネタなどを扱ったもの*1は、いささか古びている感は否めませんが、無人島に漂着した主人公が、自らの空想で生み出した人々によって振り回されていく「ロビンソン物語」や、南米のジャングルにSS少将がフランス宮廷生活を模倣する「親衛隊少将ルイ16世」などは、「アーッ、この本読みたい!」と思うこと請け合い。
ボルヘスとレムにおける差違というのは、ボルヘスが図書館で過去の文学作品や哲学書などを読みふけるなら、レムは科学雑誌や技術書などにも目を通すだろう、と言ったところかな。ボルヘスは過去を指向して、レムは未来を射程に入れている、というか。
それにしても、存在しない本の書評を書いているこの文章はいったい何ものなんだろう?
次は存在しない本の序文集『虚数』も読みたいところ。

完全な真空 (文学の冒険シリーズ)

完全な真空 (文学の冒険シリーズ)

伝奇集 (岩波文庫)

伝奇集 (岩波文庫)

*1:ヌーヴォー・ロマンやジョイスとか