『書物の迷宮』予告篇

思い出したように本を読み、本の読み方を思い出す

ウラジミール・ソローキン『青い脂』

個体オブジェクトは七体。トルストイ4号、チェーホフ3号、ナボコフ7号、パステルナーク1号、ドストエフスキー2号、アフマートワ2号、プラトーノフ3号。

― ウラジミール・ソローキン『青い脂』

 額を怪我して入院していたので、ゆっくり本が読めた。

ソローキンの本を読むのは『愛』以来2冊め。『愛』の方はストレートな文学的文章からナチュラルに糞尿や肉片で不意打ちをかけてくる感じだったけど、割りと好きな作品がいくつかあった*1。だいたい読ませた人は凄い顔をしていた。

今回の『青い脂』は長編SF仕立てになっており、最初は書簡調でボリスという男が『青脂』という物質を文学者のクローン(というにはあまりに異形な)たちから得る実験の話を語るところから始まるのだが、話の舞台はどんどんと代わり、シベリアの大地交合者教団なる宗教組織、最終的にはパラレルワールドソ連、そしてドイツ第三帝国にまで行き着く。

前半部分はかなり特有の用語が乱れ飛ぶのだけれど、中国、ロシア、英語などの単語・フレーズがごちゃまぜになって飛び交う会話がかなり背景を埋めてくれるので、慣れるとかなりこの部分が楽しい。

複数の舞台を移るあいだに、前述の文学者のクローンによる小説や詩が挿入されるのだが、元の文学者要素もありつつソローキン味に染まってる感じでなかなか良かった。

挿話関連だと、人肉で駆動する機関車の出てくるプラトーノフ3号『指令書』、トルストイ4号の絞殺獣ダヴィーロなる獣のような人間と狩りをする話、大勢の男達が川の流れのなかで松明をかかげ文章を描く『水上人文字』、水中に沈んだボリジョイ劇場と糞尿の話『青い錠剤』などが面白い。とくにクローンの書いたものは、ロシア文学に通じていればもっと楽しめたのかなと思った。

恐ろしく乱暴に話を要約すると、劇場版『AKIRA』とウィリアム・バロウズを混ぜてソローキンでまとめた感じなのだが、『愛』と同じでこれを誰にどのように薦めていいかわからない……。

とりあえず、お手にとって「凄い顔」をしてもらいたい。

  

 

青い脂

青い脂

 

 

*1:多分バロウズ裸のランチ』などを通過してると読みやすいのではないかと思う