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『書物の迷宮』予告篇

思い出したように本を読み、本の読み方を思い出す

グレッグ・イーガン『プランク・ダイブ』

「そんな苦しみをあたえるどんな権利が、わたしたちにあるというんですか、いったい?」

「きみは自分が今ここに存在していることに感謝しているだろう? 進化上の祖先たちがどんな苦しい目にあってきたとしても」

グレッグ・イーガン「クリスタルの夜」 

 だいぶ前に買って長く積んでいたのだけれども、それにしても久しぶりにイーガンを読んだような気がする。

収録作のなかで気に入ったのは3つほどで、その中でも特に興味を引いたのは「クリスタルの夜」。

「クリスタルの夜」は高速な計算機械上の人工生命にさらに高度な計算機械を実装させる男の話。人工生命は人類よりもはるかに速い時間の流れの中を、男の意図によって何度も破局や死、不遇に合わせられながら、自分たちの生のために男の願いを叶えなければならない。

あとがきの方に書いてあるのだが、この話はもともと"知性を持つプログラムの生殺与奪をもてあそぶのは忌むべき行為ではないか"というイーガンのサイトのフォーラムであった議論を元にしているらしい。そちらの議論では「問題がない」という意見が強かったらしい。なんとなく「鳥の血に悲しめど、魚の血に悲しまず。 声あるものは幸いなり。」という話を思い出す。

「暗黒整数」は短編集『ひとりっ子』に収録されていた「ルミナス」の続編で、我々の世界の数学とオルタナティブ数学の陣取り合戦めいた戦いの話。イーガンの短編のなかでは「ルミナス」が特に好きなので、こちらの話もよく楽しめた。 

「ワンの絨毯」は海洋に覆われた異星で生命体らしきものを発見する話。最初の舞台設定がちょっと『ソラリス』を思わせるが、異星で発見されたものの正体はなかなか奇想天外なシロモノで面白かった。

ディアスポラ』(未読)を先に読んでいた方が読みやすいのかな、と作中の用語から思ったのだが、実際には『ディアスポラ』の方にこちらの内容が改稿されて取り込まれているらしい。

というわけで、次のイーガンは『ディアスポラ』が読みたいなという気持ちになった。

 

プランク・ダイヴ (ハヤカワ文庫SF)

プランク・ダイヴ (ハヤカワ文庫SF)