『書物の迷宮』予告篇

思い出したように本を読み、本の読み方を思い出す

山崎俊夫「指を磨く男」

山崎俊夫作品集・中巻『神経花瓶』の「指を磨く男」など読んでいたが、とても良い。
指への偏愛・自己愛がひたすら語られ続けるというだけの内容だが、指の見立てなどの幻想に電車内で恍惚とするなどした。

嘗て盲者(めしい)の指に触つた事のある人は、誰しも知つてゐるであらう。それは女の指のやうに柔く軟(しなや)かで、しかも魚の鱗のやうに皮膚が薄く鋭敏である。思ふにこれは視覚神経の尽くがこの指先に凝結して、それがためここの皮膚が病的に発達したものであらう。わたしは盲者の指に触る事を非常に怖れた。その指はあまりに軟かである、あまりに鋭敏である。